「セラピストを1人採用するのに、96万円も払った…」
「半年で辞められて、また採用コストがかかる…」
「養成校に声をかけても、訪問看護を選んでくれない…」
訪問看護ステーションの管理者・採用担当者にとって、リハビリ専門職(PT・OT・ST)の採用は最も頭の痛い課題の一つです。
厚生労働省が2026年3月に公表した「医療等分野における雇用仲介事業に関する調査研究事業」報告書は、この問題の深刻さをデータで示しました。
介護分野(訪問看護ステーションを含む)でリハ職1人を紹介会社経由で採用した際の平均手数料は95.8万円。
さらに、紹介経由で採用した人材の6ヶ月以内離職率は15.00%──約7人に1人が半年以内に辞めているという現実が明らかになりました。
この記事では、厚労省調査のデータをもとに、訪問看護ステーションが直面する「96万円の壁」と、低コスト・低離職率を実現する賢い採用戦略を解説します。
厚労省データが示す採用コストの実態
厚生労働省の調査が示した数字は、訪問看護ステーションの経営を直撃する厳しい現実でした。
リハ職1人の採用に96万円
介護分野(訪問看護ステーションを含む)でリハビリ専門職を紹介会社経由で採用した際の平均手数料:
・平均95.8万円(回答35事業所) ・手数料率は決定年収の20〜30%が約8割 ・年収400万円なら80〜120万円の手数料
看護師・准看護師の平均78.7万円と比べても、リハ職の紹介手数料は高い水準にあります。
施設の97.6%が「手数料は高い」と回答
介護分野の施設に対する調査では、紹介手数料について以下の回答がありました。
- 「経営上大きな負担で料金が高い」:76.7%
- 「大きな負担とまではいかないが高い」:20.9%
- 合計:97.6%
ほぼすべての施設が、紹介手数料を「高い」と感じています。
7人に1人が半年以内に離職
さらに深刻なのは、高額な手数料を払っても定着しない現実です。
- 紹介会社経由で採用したリハ職の6ヶ月以内離職率:15.00%
- 非紹介経由の6ヶ月以内離職率:5.26%
- 倍率:約2.9倍
紹介会社経由で採用した7人に1人が、半年以内に辞めています。
早期離職後の対応も深刻
早期離職が発生した後の対応も、施設に重い負担を与えます。
- 「そのまま欠員になってしまった」:54.6%
- 「別の紹介会社から採用し直した」:35.1%
返戻金についても、
- 「返戻金はなかった」:17.4%
- 「手数料の25%未満」:39.7%(最多)
半年以内に辞められても、50万円以上の手数料を失うケースが多いのです。
年間200万円以上の採用コスト
仮に、年間2人のリハ職を紹介会社経由で採用し、1人が半年以内に離職した場合、
・1人目の採用:96万円
・2人目の採用:96万円
・1人目の早期離職による損失:約50万円(返戻金控除後)
・追加採用:96万円
・合計:約242万円
小規模な訪問看護ステーションにとって、この採用コストは経営を圧迫します。
病院が養成校ルートで採用できる理由

一方、病院はどうやってリハ職を採用しているのでしょうか?
厚労省調査は、病院と介護(訪問看護含む)の採用ルートの違いを明確に示しました。
病院は4人に3人が「紹介会社以外」から採用
病院でリハ職を採用した1,365人の内訳
- 有料紹介経由:16.5%(225人)
- ハローワーク経由:6.4%(87人)
- 養成校経由・縁故・直接募集など:74.9%(1,022人)
病院では、4人に3人が紹介会社を使わずに採用されています。
養成校経由の利用率51.3%
病院がリハ職採用で利用した経路(複数回答)
- 養成校:51.3%
- ハローワーク:55.4%
- 有料職業紹介:47.2%
病院は養成校との関係が強く、新卒採用のルートが確立されています。
なぜ病院は養成校から採用できるのか
病院が養成校ルートで採用できる理由は3つあります。
理由① 実習受け入れによる接点
病院は養成校の実習を受け入れており、学生と接する機会が多くあります。
実習を通じて「この病院で働きたい」と思った学生が、そのまま就職するケースが多いのです。
理由② 新卒の就職先として認知されている
PT・OT・STの養成校では、「卒業後は病院に就職する」という流れが一般的です。
病院は新卒の就職先として認知されており、学生の第一選択肢になっています。
理由③ 養成校との長期的な関係
病院は何年も前から養成校と関係を築いており、「毎年○○病院から求人が来る」という流れが確立されています。
この長期的な関係が、安定した採用を実現しています。
病院の離職率は低い
さらに、病院で採用したリハ職の6ヶ月以内離職率は5.80%(紹介経由)、1.49%(非紹介経由)、介護分野の15.00%(紹介経由)、5.26%(非紹介経由)と比べ、病院は離職率が低い傾向にあります。
訪問看護ステーションが養成校と繋がりにくい構造的問題

「病院は養成校から採用できるのに、なぜ訪問看護ステーションは難しいのか?」
この疑問には、構造的な理由があります。
問題① 実習受け入れのハードルが高い
訪問看護ステーションが養成校の実習を受け入れるには、いくつかのハードルがあります。
- 実習指導者の配置が必要
- 実習プログラムの作成
- 学生を同行させる時間的余裕
- 利用者の同意
小規模な訪問看護ステーションでは、これらのハードルを越えるのが難しいのです。
問題② 新卒の就職先として認知されていない
養成校の学生にとって、訪問看護ステーションは「経験を積んでから行く場所」というイメージが強く、新卒の就職先として選ばれにくい現実があります。
養成校経由の利用率は、病院51.3%に対し介護は9.6%と、大きな差があります。
問題③ 養成校との関係構築が難しい
病院は何年も前から養成校と関係を築いていますが、訪問看護ステーションは養成校との接点が少なく、関係構築が難しい状況です。
- 養成校への求人票の送付方法が分からない
- 養成校の就職担当者との関係がない
- 養成校の求人説明会に参加する時間がない
問題④ 小規模ステーションのリソース不足
訪問看護ステーションは、管理者1名+セラピスト数名という小規模体制が多く、採用活動に十分なリソースを割けません。
結果として、「紹介会社に頼らざるを得ない」状況が生まれています。
結果:紹介会社依存の構造
これらの構造的問題により、訪問看護ステーションは紹介会社に頼らざるを得ず、高額な手数料と高い離職率に悩まされています。
介護分野でリハ職を採用した175人のうち、45.7%が有料紹介経由。病院の16.5%と比べ、約2.8倍の差があります。
低コスト・低離職率を実現する3つの方法

では、訪問看護ステーションはどうすれば低コスト・低離職率の採用を実現できるのでしょうか?
3つの方法をご紹介します。
方法① 養成校との関係構築(長期戦略)
養成校との関係構築は時間がかかりますが、長期的には最も効果的な方法です。
✓ 養成校に求人票を送付する → 地域の養成校リストを作成し、毎年求人票を送る
✓ 養成校の就職説明会に参加する → 年1回でも顔を出し、訪問看護の魅力を伝える
✓ 見学・インターンシップを受け入れる → 実習が難しくても、1日見学・インターンシップなら可能
✓ 卒業生を採用し、その繋がりを活かす → 卒業生が「後輩を紹介」してくれるケースも
方法② 現役セラピストによる紹介・リファラル採用
すでに働いている現役セラピストからの紹介は、低コスト・低離職率を実現できる有効な方法です。
なぜリファラル採用が有効なのか?
✓ 採用コストがゼロ(または紹介報奨金のみ)
✓ 現役セラピストが「働きやすさ」を伝えてくれる
✓ ミスマッチが起きにくい ✓ 定着率が高い
✓ 紹介報奨金制度を作る → 1人紹介で10〜20万円など
✓ 現役セラピストに「知人がいたら紹介してほしい」と伝える
✓ 働きやすい職場環境を作る → 現役セラピストが「ここで働くの良いよ」と言える環境
紹介会社を使う場合のチェックポイント
紹介会社を使わざるを得ない場合、以下のポイントを確認しましょう。
チェックポイント① 手数料の透明性
□ 手数料は固定か、年収の何%か?
□ 返戻金の規定は明確か?
□ 追加費用は発生しないか?
チェックポイント② アドバイザーの質
□ アドバイザーは訪問看護の現場を理解しているか?
□ 現役セラピストがアドバイザーとして対応しているか?
□ 求職者に「訪問看護のリアル」を伝えているか?
チェックポイント③ マッチング精度
□ 求職者の適性を見て提案しているか?
□ 教育体制が整っていない場合、未経験者を紹介しないか?
□ ミスマッチを防ぐ仕組みがあるか?
チェックポイント④ 入職後のフォロー
□ 入職後のフォロー体制はあるか?
□ 早期離職を防ぐ取り組みはあるか?
□ トラブル時の対応は明確か?
チェックポイント⑤ 実績・評判
□ 訪問看護分野での紹介実績はあるか?
□ 離職率のデータを開示しているか?
□ 他のステーションからの評判は良いか?
悪い紹介会社の特徴
逆に、こんな紹介会社は避けるべきです。
✗ 手数料が年収の30%以
✗ 返戻金の規定が不明確
✗ アドバイザーが訪問看護の実態を知らない
✗ 「すぐに人材を紹介します」と安易に約束する
✗ 入職後のフォローがない
まとめ
厚労省調査が示した「96万円の壁」は、訪問看護ステーションの経営を圧迫する深刻な課題です。
調査から学ぶべきポイント
✓ リハ職1人の採用に平均95.8万円
✓ 紹介経由の6ヶ月以内離職率は15.00%(約7人に1人)
✓ 施設の97.6%が「手数料は高い」と回答
✓ 早期離職後、54.6%の施設が欠員のまま
低コスト・低離職率を実現する3つの方法
✓ 養成校との関係構築(長期戦略)
✓ 現役セラピストによる紹介・リファラル採用
✓ 低価格・現役セラピスト対応の人材紹介サービスを使う
紹介会社を使う場合のチェックポイント
✓ 手数料の透明性
✓ アドバイザーの質
✓ マッチング精度
✓ 入職後のフォロー
✓ 実績・評判
訪問看護ステーションの管理者・採用担当者の皆様、「96万円払って、半年で辞められる」という悪循環から抜け出すために、今こそ採用戦略を見直すべき時です。

